小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
「クリスマス、だったんだよね……昨日までは。知っていたかい夏目?」
日付くらい知ってます。ええそうですね、今日は12月26日です。25日はクリスマスですね。で、それがどうしたんですか名取さん。口調だけは穏やかですけど、笑顔がいつもの三割増しうさんくさいです。なんか目つきすごい悪いっていうか睨んでますよねおれのこと。別にいいんですけど、なんかこう……怒っているみたいなんですけど、おれ、なんかしましたか?した覚えないんですが。というか名取さんと会うの自体が十日ぶりくらいですが。
ええと、その時は藤原夫妻へのクリスマスプレゼント買うのに付き合ってもらったっていうか、名取さんが珍しく暇だっていうからじゃあ一緒に行きますかってそんな感じで。別になんかあったわけでもなく買い物済ませてお茶飲んでそれで帰ったんだけど。名取さんが怒るようなことした覚え全くないんですが。
ボケっとしてたら名取さんはダンッ!て思い切りテーブルを叩いてきた。どうでもいいですが、叩いた勢いで、なんかちょとこう……、テーブルがへこんだような気がするんですけど気のせいということにしておいたほうがいいですか?……というか名取さんテーブル叩いて手は痛くないんですか?
そんなこと聞いても「私の手など問題じゃないんだよね……」と睨まれ具合がさらに倍増して。うーん、手が問題じゃなければこのテーブルが問題ですか?コーヒーショップのテーブル、壊したら弁償しないといけないのかもしれない。いくらくらいだろう?傷くらい、へこみ位だったら平気なのかな……、と言ったらそれも問題じゃないと更に重ねられた。じゃあ名取さんがテーブル叩いて零れてしまったコーヒーですか?店員のお姉さんが慌てて拭いてくれてますけどごめんなさい。
「だから問題はクリスマスなんだ、夏目」
「はあ……」
繰り返されても力説されてもおれには名取さんが何を言いたいのかわかりません。
だってさっきも言ったけど今日は26日。
クリスマスイブもクリスマスももう過ぎている。
ケーキだろうがチキンだろうが、今日は売れ残り一掃セール的にどこのスーパーに行っても大安売りの大特売だ。もう年末年始に向けてのラインナップに切り替わってますよ。何か問題でもあったんですか?
「クリスマスと言えば恋人たちの祭りの日なんだよわかるかい?」
「はあ、そうですね。テレビとかではそういうこと連呼してましたね昨日まで」
おれには関係ないけど。うん、昼間は西村たちとみんなで遊んだ。多軌も誘ってみたらみんなから「夏目グッジョブっ!」と思い切り感謝された。それはともかくうーん、恋人達のクリスマス?おれ的にはみんなで仲良く楽しんだ一日で、恋人とかそういう手のものは無関係っていうかおれにはそんなものもともといませんし。それよりも友達とクリスマスなんて初めてだからすごく嬉しかった。あ、もちろん藤原夫妻とも一緒に「家族のクリスマス」っていうのもしてもらったんだ。そんなのも初めてだからおれはすごく嬉しくてちょっと照れくさくて……、それで幸せで。反芻、するだけでなんかじーんと胸に迫ってくるモノがある。だけど、ですね。ええと、名取さん?じとーーーーーーーってこっち見ないでくださいよ。
「知っていたのならなんで私に連絡もしてくれないのかな?私のケイタイ番号教えただろう?」
にっこり笑ってる胡散臭さだけど目の奥は笑ってませんブリザード。で、ええと……ああはい、番号ですか。貰いましたねそんなメモ。買い物に付き合ってもらった時に。いい加減紙人形を扉に挟んでおくのやめてくれませんか、って文句言ったら教えてくれたんだったっけ。でも連絡する約束なんてしてないよな?何時でも構わないから……、っては言われたけど。それとも番号貰ったら即座に掛け直さないといけないとかいうルールとかあるんだろうか?でもそれだったらクリスマス無関係ですぐに連絡とか言われそうだし。ええと、よくわからないなあ。名取さんにおれが連絡しないといけないこと、といえば、あ、そーか。
「もしかして、妖絡みでなにかあったから電話して欲しいとかそういうことだったんでしょうか?」
電話で詳しく話すつもりだったのかな?例えばクリスマスまでに妖退治してくれとかの依頼があって、おれに手伝って欲しかったとかならうん、わかる。けど、そんなことだったら最初から事情とか話してくれてればいいのに、とか思うのに。
「は?妖?なんでそんな言葉が今出てくるのかなあ夏目」
……妖関係じゃいんならなんだろう?
おれが首かしげたら、また、さっきみたいに名取さんはダンっ!とテーブル叩いて。
「恋人同士の祭典だよ夏目。なんで電話くらいくれないのかな?」
……そんなこと言われましても。
「ええと、クリスマスだったらおれが名取さんになんか連絡する必要あるんですか?」
わからないから聞いてみた。
「この間私が夏目に告白しただろうっ!それで電話番号なんか渡しもしてっ!夏目が連絡してくれるのを今か今かと待っていたんだけれどね」
……………………ええと?
告白?なんですかそれ?聞いた覚えありません。
「夏目だって私の告白にそうですねってイエスの返事をくれたから。だったらクリスマスは二人で過ごすというのが当然というかっ!」
「えーと、身に覚えがありません」
力説されても困ります。告白?それなんですか?
「は?」
「告白ってあれですよね、好きだとかそういう……」
好きとかいう言葉は恥ずかしい。ラーメンとかケーキが好きとかならおれだってしょっちゅう言ってるけど。人に対して使うとなると別問題。しかも名取さんが、おれを好きとかですか?そんな恥ずかしい言葉、聞いた記憶なんてありません。
「ええと、夏目?」
「そんなの言われてないですよ、初耳です」
「言ったじゃないかっ!先週一緒にデパートに買い物に行って夏目は夫妻の分のプレゼントを買って、その後だよ。夕陽が落ちて辺りが夕闇に沈んでそんなベストタイミングでイルミネーションが灯りだした街路樹の所を歩いたのも忘れたのかな?」
あー、あれ。クリスマスイルミネーションすごいきれいでしたけど。周りカップルの人ばっかりですごい恥ずかしかったんですよね。
「その時に言った言葉も覚えていないかな?」
「ええと。結構黙って歩いてましたよね。それでぽつぽつと、なんでしたっけ?来年もまた一緒に見ようとか名取さんが言って」
「正確には来年も再来年もずっと一緒にこんなきれいな風景を見ようなんだけど?」
「あーそうですか。すみません。でもまた来年一緒にああいうイルミネーション見ようってことでしょう?そのくらいだったらいいですけどって返事した記憶はありますけど……」
その後とかでなんか言われたんのかな?告白なんてそんなことされたらさすがに忘れてるなんてことないと思うんだけど。
「いい……、ってことはプロポーズ承諾ということで、」
「は?」
本気でおれは名取さんの思考回路がわからない。イルミネーション来年も再来年だって一緒に見るくらいいいですよ。だけどなんでそれが告白だのプロポーズだのにになるんでしょうか?
「毎年一緒に、それで、ずっと一生一緒にって意味だったんだけどねえ」
「はあ……」
「夏目には通じなかったか……」
がっくりと肩落としてテーブルに突っ伏した。
あのですね、名取さん、婉曲過ぎませんかそれ。
仮にとっくの昔に付き合っている恋人同士なら一生とか来年もとかいう言葉に反応するのかもですけど。
おれと名取さんはそんな関係じゃないでしょう。それがいきなりイルミネーションずっと一緒に見ようイコールプロポーズなんて誰がわかるかっていうんですか!!
殴りたい衝動がふつふつと沸いてくる。
だけど、はああああああああああああああ、と、おれはため息吐きまくってその衝動をやり過ごす。
来年も再来年もずっとクリスマスを一緒に過ごしましょう。イコール一生一緒に過ごしましょう……ですか。
そういうのは最初からちゃんと手順追ってしっかり伝えてくれませんか名取さん。一足飛びにこれじゃあ通じるも通じないもないでしょう。言葉いくつ足りないんだこの人。まあ、おれも名取さんのこと言えないですけど。いつも言葉が足りなくて失敗するというか後悔するというか、なんかもっとうまくできたらいいなあってことはよく思いますけど。
でも、ですね名取さん。
好きだとか言ってもらってないですしおれ。おれも言ったことないですし。
同じ風景が見える友人とか言ってませんでしたっけ?ええ、友人ですよ友人。いいですか?恋人とかじゃないんですよ。
仮に一生一緒に居ようとか言われても、そんなの恋愛の意味になんて取れるわけないじゃないですか。
最初にやるべきはお互いの意思の確認でしょう?
名取さんはおれのことは好きなんですか?コクコク頷いているっていうことはそういうことでいいんですね?
で、その好きの意味は友人じゃなくて恋人とかになりたいとかの意味でいいんですか?
ああ、そうですか。わかりました。
じゃあ、ちゃんとそれ、言葉に出して言ってくださいよ。無言で頷かれてもちょっとなあ……、っていうか名取さんが言ってくれないとおれだってイエスもノーも、返事なんてできないじゃないですか。
え、なんですか?ノー、は聞きたくないからイエスと言ってくれ?
あのですね名取さん。おれにも意思っていうのがあるんですよわかってます?
それにですねもしも、いいですかもしも、ですよ、おれがイエスって答えたらどーするんですか。男同士ですけど良いんですか大丈夫なんですか?
名取さん笑っちゃうけど若手人気俳優でしょう。こういうのスキャンダルとかになったりしないんですか?俳優辞めて妖払い業だけにするんですか?
そういうこと色々ちゃんと考えてます?葛藤はないんですか?っていうかおれでホントにいいんですか。
ちょっとちゃんと考えてくださいよ。何にも考えなしに一足飛びにいきなり一生一緒に過ごそうなんてあり得ませんよ。それにですね、おれは出来れば一生、そう、一生って言葉を使うんなら一生藤原の家で過ごしたいです。それがおれの願いなんです。名取さんがおれと一生一緒に居る気なら、名取さんも藤原の家に住むんですか?それ、二人にどう説明すればいいんですか。
このへん全部すっ飛ばして勝手におれと名取さんが恋人になってクリスマス一緒に過ごすとかそういうの勝手に想像しないでください。いえ、これはもう想像というよりむしろ名取さんの妄想ですよね。その上でおれになんで連絡してこないんだなんて勝手に怒っていたんですよね名取さん。
ちょっと、黙ってないで何とか言ってくれてもいいんじゃないんですか?言い訳とか弁明とかそういうのはないんでしょうか名取さんっ!!

言いたいこと全部言って、おれは名取さんの返事を待った。
だけど名取さんは未だにテーブルに突っ伏したまま。
どうしてくれようこの人。
取りあえず、怒りを抑えるには甘いもの、かなと思って。店員のお姉さんにテキトウにケーキ持ってきてくださいあとコーヒー追加でお願いしますとオーダーする。
まだ無言。おれも無言でトレーに乗せられてやってきたケーキを全部、お腹一杯になるまで食べまくったやった。
で、おれが食べ終わっても、コーヒーも飲みきっちゃってもまだ名取さんは無言のまま。
あー、ほんとこの人どうしようかな。
もうここに放置して藤原の家に帰ろうかな。
と、そう思った時だった。
名取さんがいきなりがばっと立ち上がった。
「夏目っ!」
「は、はいいいい?」
いきなりだからびっくりした。
心臓止まるかと思ったけど。
「い、色々問題はあるけど夏目となら乗り越えていけると思うんだよね私はっ!」
「は、い?」
「私も頑張るから。困難くらいいくらでも乗り越えるからだから夏目私と結婚しようっ!」
……ここにニャンコ先生がもしいたらきっと盛大に噴き出してるぞうん。
店員のお姉さんも他のお客さんもおれたちに大注目してるし。
せめてお付き合いしましょうならともかく付き合いもすっ飛ばしていきなり結婚ですか。
あー……。
窓の外とかに視線逸らしたり。
誰が助けてくれませんかとか言ったりしてみたかったけど。
名取さんは思いっきりぜいぜいはあはあ肩で息しながらおれの方を見てきている。
見る、というより凝視。凝視というか、射殺すくらいの勢いだ。
えーと。どうしよう。
ノーという返事は聞きたくないとかさっきこの人ほざいていたし。
だけどおれだって自分の意思とか希望ってもんがあるし。
あー……、でもホントに断ったら名取さんこの場で即死しそうだしな仕方がない。
おれはまたもう一回深く深ーくため息をつく。
それできっぱりはっきり言う。

「結婚はお断りします」
「な、夏目ええええええ」

おれが断りいれたら名取さんはすごい情けない声出してきた。あー、ほんとダメな大人だなこの人。
まあでも、あれです。さっき名取さんはおれといっしょなら困難くらい乗り越えていけるって言ってくれたから。そういうのはちょっと嬉しいからだから。
そのお礼になんて言うわけじゃないですけど。
クリスマスには一日遅れたけど、メリークリスマスにはプレゼントだよなとかうっかり思ってしまったものだから。
「だけどおれの一生分のクリスマス、名取さんに差し上げます。一生死ぬまで毎年毎年来年も再来年もずっといっしょにクリスマスのイルミネーション見て過ごしましょう」
思いっきり、おれが出来る限りの笑顔で。
おれは名取さんに笑いかけた。





- 終 -




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