小説・2
BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
話したいのに上手く言葉が出ない。
いや、きっと話すことそれ自体を恐れていた。
本当の自分を知ってもらいたい。
けれど知られるのは怖い。
それは相手に自分の気持ちを否定してほしくないから。否定されるのが悲しいから。
だから言いたい気持ちを飲み込んで、冗談のような言葉だけを繰り返した。
決してその先にはいかなかった。
けれどそれは過去の話。
今はもう違う。
腕の中でうとうとと、眠そうに目を擦る夏目を見て、名取はふと昔を思い出した。
「そう言えば昔はそんなことを想っていた……な、」
もう何年も前の過去。
言いたい言葉を告げられずに何度も何度も飲み込んで。繰り返された言葉の先へと決して行きはしなかったあの当時。
あれからもう何年もたったのにな、と名取は幸せなため息を吐いた。
気持ちを通わせあってから。
一緒に暮らし始めてから。
もう何年も何年も経っている。
今は、もうあのころとは違う。この腕の中に夏目を抱きしめて眠る。それが当たり前の日常となったというのに。
なのに、ふとした瞬間に笑みがこぼれる。
あの頃の自分に教えてやりたい。
胸の中でだけ繰り返した言葉の先へ、一歩でも踏み込めば。その先に広がる世界はこんなにも幸福なのだと。
――だけど夏目。もしもの仮定の話だけれど。私が君に好きと告げて、それを君に受け入れてもらったら。……これ以上もないほどに幸福だと思うのだけれどね。
そんな過去の仮定は既に仮定ではなく。それが今では当たり前の毎日となった。
今現実に、夏目が名取の腕の中にいて、無防備な顔で、まどろみかけている。
眠りに落ちかけた夏目の髪にそっと触れる。幸せなひと時を噛みしめるように。何度も何度も。嬉しくて仕方がないというように。
「……なとり……さん?」
呼ばれる名前。こんなにも近くで。それが何よりも愛おしいものだと思うのだ。
「いや、何でもないよ。おやすみ夏目」
「はい……、おやすみなさ……」
既にすうすうという寝息が聞こえてくる。
「おやすみ夏目。よい夢を」
この幸福がいつまでも続くことをただ願う。どうか、良い夢を夏目。どうか、このまま幸福のままでと切に願うのだ。
何時までこんな幸せが続くのだろうかと、ふとした瞬間に不安には襲われる。
けれど。
この時をいつまでも続けられるようにと、名取はそう強く思いながらも目を閉じた。
――おやすみ夏目。よい夢を。
その名取の声に答えようとしたけれど、もう眠い。開けようと努力した瞼も重くて仕方がない。
だから、夏目は返事の代わりに名取の胸に額を寄せる。
夏目の髪を撫ぜてくる名取の手が暖かい。
こんな今を、いつまで続けられるのだろう。
わからない。
けれど。
繰り返された言葉の先を飲み込んでいたあのころにはもう戻れない。
このままずっと。
それは、いつも思っていること。
幸福の中だけに居られたらと。
すぐにマイナスに考えてしまう。
一体いつまでこの場所にいられるのだろうと。
ここにずっと居たいのにと。
居てもいいよと言われるように髪が撫ぜられる。
だから。
繰り返す。胸の中で。
名取さんが、好きです。
昔、言えなかった言葉。
繰り返し胸の中に秘め続けた気持ち。
繰り返す。
そして。
朝になったらおはようと言って。そうして秘めずにきちんと言葉で伝える。
良い夢を見続けるのではなく現実として。
秘めたままではなく心を伝える。
ここに居たいと。幸福なこの腕の中でずっと過ごしたいのだと。
願いを叶える。そのために繰り返された言葉の先を、今は伝える。
何時までいられるのだろうかここに。
不安はある。
だけど。
伝える。
この時間がずっと続いて、そして終わることのないことを願うのなら。
秘めたままではなく、声に出すのだ。
何度も何度も。繰り返す言葉。その先を繋げるために。
何度も何度でも。
‐ 終 ‐
いや、きっと話すことそれ自体を恐れていた。
本当の自分を知ってもらいたい。
けれど知られるのは怖い。
それは相手に自分の気持ちを否定してほしくないから。否定されるのが悲しいから。
だから言いたい気持ちを飲み込んで、冗談のような言葉だけを繰り返した。
決してその先にはいかなかった。
けれどそれは過去の話。
今はもう違う。
腕の中でうとうとと、眠そうに目を擦る夏目を見て、名取はふと昔を思い出した。
「そう言えば昔はそんなことを想っていた……な、」
もう何年も前の過去。
言いたい言葉を告げられずに何度も何度も飲み込んで。繰り返された言葉の先へと決して行きはしなかったあの当時。
あれからもう何年もたったのにな、と名取は幸せなため息を吐いた。
気持ちを通わせあってから。
一緒に暮らし始めてから。
もう何年も何年も経っている。
今は、もうあのころとは違う。この腕の中に夏目を抱きしめて眠る。それが当たり前の日常となったというのに。
なのに、ふとした瞬間に笑みがこぼれる。
あの頃の自分に教えてやりたい。
胸の中でだけ繰り返した言葉の先へ、一歩でも踏み込めば。その先に広がる世界はこんなにも幸福なのだと。
――だけど夏目。もしもの仮定の話だけれど。私が君に好きと告げて、それを君に受け入れてもらったら。……これ以上もないほどに幸福だと思うのだけれどね。
そんな過去の仮定は既に仮定ではなく。それが今では当たり前の毎日となった。
今現実に、夏目が名取の腕の中にいて、無防備な顔で、まどろみかけている。
眠りに落ちかけた夏目の髪にそっと触れる。幸せなひと時を噛みしめるように。何度も何度も。嬉しくて仕方がないというように。
「……なとり……さん?」
呼ばれる名前。こんなにも近くで。それが何よりも愛おしいものだと思うのだ。
「いや、何でもないよ。おやすみ夏目」
「はい……、おやすみなさ……」
既にすうすうという寝息が聞こえてくる。
「おやすみ夏目。よい夢を」
この幸福がいつまでも続くことをただ願う。どうか、良い夢を夏目。どうか、このまま幸福のままでと切に願うのだ。
何時までこんな幸せが続くのだろうかと、ふとした瞬間に不安には襲われる。
けれど。
この時をいつまでも続けられるようにと、名取はそう強く思いながらも目を閉じた。
――おやすみ夏目。よい夢を。
その名取の声に答えようとしたけれど、もう眠い。開けようと努力した瞼も重くて仕方がない。
だから、夏目は返事の代わりに名取の胸に額を寄せる。
夏目の髪を撫ぜてくる名取の手が暖かい。
こんな今を、いつまで続けられるのだろう。
わからない。
けれど。
繰り返された言葉の先を飲み込んでいたあのころにはもう戻れない。
このままずっと。
それは、いつも思っていること。
幸福の中だけに居られたらと。
すぐにマイナスに考えてしまう。
一体いつまでこの場所にいられるのだろうと。
ここにずっと居たいのにと。
居てもいいよと言われるように髪が撫ぜられる。
だから。
繰り返す。胸の中で。
名取さんが、好きです。
昔、言えなかった言葉。
繰り返し胸の中に秘め続けた気持ち。
繰り返す。
そして。
朝になったらおはようと言って。そうして秘めずにきちんと言葉で伝える。
良い夢を見続けるのではなく現実として。
秘めたままではなく心を伝える。
ここに居たいと。幸福なこの腕の中でずっと過ごしたいのだと。
願いを叶える。そのために繰り返された言葉の先を、今は伝える。
何時までいられるのだろうかここに。
不安はある。
だけど。
伝える。
この時間がずっと続いて、そして終わることのないことを願うのなら。
秘めたままではなく、声に出すのだ。
何度も何度も。繰り返す言葉。その先を繋げるために。
何度も何度でも。
‐ 終 ‐
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